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樒(しきみ)とは?仏教との関わりや葬儀の使用例、榊との違いを解説

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樒(しきみ・しきび)とは、古くから仏教と深く関連がある植物で、邪気払いやお清めのために使われてきました。現代でも、関西地方の葬儀やお仏壇・お墓への供え物として広く用いられています。このページでは樒の基本情報と仏教・各宗派との関わり、榊(さかき)との違い、使用例について解説します。

樒とは?特徴と名前の由来

樒の写真

樒(しきみ・しきび)はマツブサ科シキミ属の常緑小高木で、最大10メートル程度まで成長します。一年を通して、光沢のある美しい緑色の葉を茂らせ、春には淡黄色の花を咲かせます。
ここでは樒の特徴・特性と名前の由来について解説します。

樒の特性

樒には他の常緑樹と異なる3つの特性があります。

1. 強い毒性を持つ

樒の花言葉は「猛毒」「甘い誘惑」「援助」であり、花言葉の通り、樒の葉・花・果実・種子など全ての部分に「アニサチン」という猛毒が含まれています。「毒物及び劇物取締法」により植物で唯一「劇物」に指定されています。

2. 独特の香りを発する

樒は毒性が強いだけでなく、独特の強い香りを放つことも特徴のひとつです。樒の葉や樹皮は、お線香や抹香(まっこう、お焼香で用いられる粉末状のお香)の原料としても利用されています。
樒はその香りの強さから、「香の花(こうのはな)」「香の木(こうのき)」「香芝(こうしば)」と呼ばれることもあります。

3. 仏教と関わりが深い

樒は古くから仏教と関わりが深い植物です。仏事に広く使われ、特に関西地方での葬儀や法要において重要な役割を果たします。お墓に供えられることも多いことから、「花芝(はなしば)」「墓花(はかばな)」「仏前草(ぶつぜんそう)」などとも呼ばれています。仏事で使用される場合は、主に葉が使われます。

名前の由来

樒の名前の由来にはいくつかの説があります。
四季を通じて常に美しい緑色の葉を保つことから「四季美」と称され、それが転じて「しきみ・しきび」と呼ばれるようになったという説が有力です。

他にも、下記のような説があります。

  • 「四季芽」説
    四季を通して芽を出すことから「四季芽」と呼ばれていたことが変化した。

  • 「悪しき実」「臭き実」説
    毒を持つことから「悪しき実(あしきみ)」、また、強い香りを持つことから「臭き実(くしきみ)」と呼ばれ、それが省略されて「しきみ」となった。

  • 「敷き実」説
    敷き詰められるように実が成ることから「敷き実」と呼ばれていた。

名前の由来には諸説ありますが、それぞれ樒の特徴を示していることがわかります。

樒と仏教の関係・樒が仏事に使われる理由

仏像の写真

樒は古くから仏教にとって重要な植物とされてきましたが、それはなぜなのでしょうか。仏教と樒の関わり、樒が仏教にとって重要とされる理由について、具体的に解説します。また、樒が現代でも仏事や葬儀で使用されるわけも合わせて解説します。

樒が仏教で重要とされる理由

理由は主に2つあり、奈良時代や平安時代の出来事まで遡ります。

1. 鑑真が日本に樒をもたらしたから

鑑真は、688年に唐(現在の中国)で生まれた僧侶です。14歳で出家して修行を積み、仏教を広めるために日本への渡航を決意しますが、5回にも及ぶ失敗により視力のほとんどを失います。しかし諦めなかった鑑真は、6回目にして渡航に成功し、日本における仏教と文化の発展に大きく貢献しました。
江戸時代の書籍「真俗仏事編」に、樒は仏教とともに鑑真が持ち込んだと記録されています。このことから、樒は古くから仏教を象徴する植物として親しまれてきました。

2. 樒は「青蓮華(しょうれんげ)」に似ているから

青蓮華は、極楽浄土に咲くとされ、仏様の青い目を象徴する花として尊ばれています。樒はその青蓮華に形状が似ているため、真言宗の開祖である弘法大師(空海)は、青蓮華の代わりに樒を密教の修行に用いたといわれています。樒の漢字に「密」が含まれているのは、密教が由来であるという説もあります。
以上の伝承により、樒と仏教の関係が一層深まり、仏事に広く使用されるようになったと考えられています。

樒が仏事や葬儀で使用される理由

樒が日本の仏教文化や葬儀習慣に深く根付き、古来から広く使用されてきた3つの理由について解説します。

1. 場を清め、邪気や害獣を寄せ付けないとされるため

仏教において「香(お香や香り)」は、空間を浄化し、邪気を払うために使われます。
特に樒の強い香りは、死臭を和らげるとともに、悪霊や邪気・害獣から故人様を守る効果があるとされてきました。葬儀や埋葬の際に用いられ、棺の中に樒を敷き詰めたり、土葬されたお墓の周りに植えられたりすることがあります。

2. お供えする水を清浄に保つため

水に樒を浸すことで、その強い香りと毒性により邪気が払われ、水を浄化し清浄に保つとされています。浄土真宗では、「華瓶(けびょう)」という仏具に水を入れ、樒を挿して、日常的にお仏壇にお供えします。

※浄土真宗と樒については「浄土真宗など各宗派と樒の関わり」で詳しく解説しています。

3. 一年中美しい葉を付けることから「永遠の命」を想起させるため

樒は、一年中枯れることなく鮮やかな緑色の葉を保つため、「永遠の命」を想起させます。このことは、命が「常住不変(変わらずに常に存在すること)」であると説く日蓮正宗の教えに通じる部分があるため、日蓮正宗では通常の仏花の代わりに樒をお仏壇やお墓に供える習慣があります。

樒と榊(さかき)は何が違う?

神棚と榊の写真

樒と榊(さかき)は同じ常緑小高木で一見すると似ていますが、種類も用途も全く異なる植物です。それぞれの違いについて詳しく解説します。

榊(さかき)とは

榊とは、サカキ科(ツバキ科)の常緑性小高木です。梅雨の時期には白い花が咲き、秋になると黒い実がなります。
榊は、その字が表すように「神の木」という意味があります。その語源は、神様の住む世界と私たちの住む世界との境を示す「境木(さかいき)」や、栄える木という意味の「栄木(さかき)」から転じたともいわれています。

樒との違い

樒と榊は似ているように見えますが、下記の点において違いがあります。

用途 主に仏事で使用 主に神事で使用
香り 独特の強い香り ほぼ無臭
葉の付き方 1か所から複数付いている 1枚ずつ左右対称に付いている
葉の厚み 肉厚で柔らかい 平たく硬い

神事で使用されるのが「榊」

樒と榊の最も大きな違いは用途です。樒は仏事や仏式の葬儀などで用いられることに対し、榊は神事や神式の葬儀で用いられます。神式の葬儀では、紙垂(しで)をつけた榊を祭壇に捧げる「玉串奉奠(たまぐしほうてん)」が欠かせません。関東以北の寒冷地では、榊によく似た植物である「ヒサカキ(非榊・姫榊)」が代用されることがあります。

樒は「梻」と記載されることもあります。「佛(ほとけ)」が付く方が仏事に使用する「樒(しきみ)」、「神」が付く方が神事に使用する「榊(さかき)」と覚えると分かりやすいです。

※一部例外として、火伏せの神様をお祀りしていることで知られる京都の「愛宕神社」では、樒を神木としています。

■榊の飾り方について詳しくはこちら

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樒が使われる場面と使用例

葬儀の祭壇写真

樒は古くから仏事において多様な形で使用されてきました。その伝統は現代まで受け継がれています。
仏事における樒の使用場面と、具体的な使用方法について解説します。

臨終から葬儀までの儀式・祭壇での使用

  1. 末期の水(まつごのみず・死に水)
    臨終に立ち会った方が故人様の口に水を含ませる儀式で、一部地域ではガーゼや筆の代わりに樒の葉を使用します。

  2. 葬儀前の祭壇(枕飾り)
    ご遺体を安置する際に作られる祭壇(枕飾り)の花立に、花の代わりに樒を1本挿すことがあります。

  3. 納棺
    かつては、ご遺体の死臭を和らげるために棺の中に樒を敷き詰める習慣がありました。現代ではご遺体の保存技術の進歩により、この習慣はあまり見られなくなっています。

葬儀会場の装飾

  1. 門樒(かどしきみ)・二天樒(にてんしきみ)
    関西地方では、葬儀会場の入口や寺院の門前に樒を飾る慣習があり、「門樒(かどしきみ)」と呼ばれています。
    (「大樒(おおしきみ)」「樒塔(しきみとう)」と呼ばれることもあります。)
    また、祭壇の左右後ろに「二天樒(にてんしきみ)」を飾ることで、葬儀会場を樒で囲い、亡くなった方を邪気から守る意味合いがあります。

  2. 供花や花輪の代わり
    供花や花輪より、樒をお供えすることが最も丁寧だとされる地域があります。そのような地域では、供花や花輪の代わりに樒を贈り、門樒として飾ります。
    近年では葬儀会場の規模やその他の制約により、大きな樒を飾ることが難しい場合があるため、「紙樒(かみしきみ※)」や「板樒(いたしきみ※)」が主流になりつつあります。

    ※樒の代わりに、参列者の名前を記載した紙や板を掲示する方法です。

  3. 葬儀の祭壇
    花祭壇や白木祭壇の装飾にも、樒が用いられることがあります。

お墓やお仏壇へのお供え

  1. 埋葬時
    かつては土葬が一般的だったため、動物にご遺体を掘り起こされないよう、香りや毒性が強い樒を一緒に埋葬したり、お墓の周囲に植えたりすることがありました。

  2. お墓のお供え
    埋葬時に樒を使用した名残や、場を清める意味合いで、現在でもお墓に樒をお供えする地域・宗派があります。

  3. お仏壇へのお供え
    浄土真宗や日蓮正宗など、宗派によってはお仏壇へのお供えに樒を使用します。

浄土真宗など各宗派と樒の関わり

浄土真宗の荘厳がされたお仏壇

一部宗派では、樒をお仏壇やお墓に供えることがあります。特に浄土真宗では、お仏壇の日常的なお供えとして樒が用いられます。
ここでは、樒と各宗派の関わりについて解説します。

樒と浄土真宗

浄土真宗は、お仏壇へのお供えとして樒を使用します。

浄土真宗では、亡くなった方はすぐに極楽浄土へ往生すると考えられています。極楽浄土は「八功徳水(はっくどくすい※)」という上質な水が豊富にあるため、水やお茶をお供えする必要はありません。その代わり、「華瓶(けびょう)」という小さな壺型の仏具に水を入れ、樒を挿してお供えすることで八功徳水を表現します。また、樒は極楽浄土に咲いているとされる「青蓮華」に形が似ていることから、仏様に青蓮華をお供えするという意味合いもあります。

※「八功徳水」

8つの優れた性質を持つ水のことで、甘く、冷たく、軟らかく、軽く、きれいで、臭みがなく、喉やお腹を痛めない性質を持っているとされます。

華瓶はお仏壇のどこに置く?

樒を挿した華瓶は、お仏壇の中央最上段にお祀りされているご本尊の手前に一対で飾ります。また、浄土真宗本願寺派は色付の華瓶、真宗大谷派は磨き(金色)の華瓶を用います。

華瓶(けびょう)

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樒とその他宗派

密教の修行で樒を用いた弘法大師(空海)が開祖である真言宗や、浄土宗でも、樒をお仏壇やお墓にお供えする場合があります。樒のお供えには地域差があるため、住職や身近な人に確認されると安心です。

よくある質問

よくある質問のイメージ画像

樒に関するよくある3つの質問について回答します。

Q1. 樒の販売店を教えてください。また、値段はどのくらいしますか。

A. 樒はスーパーマーケット、ホームセンター、生花店などで販売しています。値段は用途によって異なります。

お近くの店舗に取り扱いがない場合、インターネット通販でも入手できます。榊とよく似ているため、間違えないように注意しましょう。
価格の相場は、1束500円~1,000円程度です。
葬儀で飾られる門樒や、供花・花輪の代わりに贈る樒を購入する場合、葬儀社を通じて手配することが一般的です。値段は、門樒は一対で1万円~3万円程度、供花・花輪の代わりに贈る樒は一対で5,000円~1万5,000円程度です。

Q2. 樒は造花をお供えしてもいいのでしょうか。

A. 本物の樒を飾ることが最も望ましいですが、造花のお供えも可能です。

樒が入手できない場合は、造花の樒を代用することもできます。

はせがわでは、木製常花(造花)の樒を取り扱っております。木製常花をお供えする際は、華瓶には水を入れずにお飾りください。
(木製常花が水を吸って変形・変色するおそれがあります。)

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造花の樒

Q3. 樒を庭に植えてはいけないと聞きましたが本当ですか。

A. 自宅栽培は禁じられていませんが、有毒植物のためおすすめしません。

樒を自宅の庭で育てることは可能ですが、有毒植物のため、子どもやペットが誤って口にしないよう細心の注意が必要です。また、樒の実は中華料理によく使われる「八角(トウシキミ)」に非常に似ており、誤食して食中毒を起こした事例もありますので気を付けましょう。