施餓鬼とは?お盆との関係は?
死後、餓鬼道(がきどう)に落ちて餓鬼になった人や無縁仏など、飢えに苦しんでいる死者の霊魂に食べ物や飲み物などを施して供養する法会(儀式)のことを「施餓鬼(せがき)」といいます。
正式名称は「施餓鬼会(せがきえ)」といい、「お施餓鬼」と呼ばれることもあります。
ここでは、施餓鬼の目的・由来や盂蘭盆会(お盆)との違いについて解説します。
施餓鬼の目的
- 餓鬼や無縁仏など、死者の霊魂の救済
- ご先祖様の追善供養
- 自分自身の救いのため
施餓鬼の目的は、飢えや渇きに苦しんでいる死者の霊魂を救済することです。
また、施餓鬼には多大な功徳があるとされており、ご先祖様へ功徳を振り向けることで(「回向(えこう)」)、追善供養にもなります。
(追善供養…残された人が故人様の冥福を祈って行う供養のこと。)
そのため、多くのお寺でお盆の時期に盆法要と合わせて施餓鬼法要を実施しています。
さらに、お盆にご先祖様の供養だけでなく、施餓鬼によって「有縁無縁三界萬霊(あらゆるすべての霊魂)」の供養をして徳を積むことで、自分自身にも救いがあるといわれています。
◆餓鬼道と餓鬼
仏教には「六道」という6つの世界があり、死者は生前の行いによっていずれかの世界に生まれ変わります。「餓鬼道(がきどう)」はその中のひとつです。生前の悪行などにより餓鬼道に落とされた死者は「餓鬼」という鬼になります。餓鬼の喉は針のように細く、食べ物や飲み物を受け付けません。そのため、飢えや渇きに苦しみ続けるとされています。
由来となった伝承と施餓鬼の歴史
施餓鬼の由来は、「仏説 救抜焔口餓鬼陀羅尼経(くばつえんくがきだらにきょう)」というお経で説かれています。
お釈迦様の十大弟子のひとりである阿難(あなん)尊者が瞑想していると、焔口(えんく)という餓鬼が現われ、「お前は三日後に死んで、私のように醜い餓鬼に生まれ変わるだろう」と予言します。
阿難尊者がお釈迦様に相談したところ、「お経を唱えながら多くの餓鬼や僧侶に食べ物を施しなさい。そうすれば、あなたの寿命は延びて悟りを開くことができるでしょう。」と話されました。
お釈迦様が話された通りにすると、多くの餓鬼が救われ、その功徳をもって阿難尊者も寿命を延ばすことができました。
真言宗の開祖である空海が、唐からこのお経を持ち帰ったことがきっかけで、施餓鬼が行われるようになりました。現在のように、追善供養のために施餓鬼が行われるようになったのは鎌倉時代からだといわれています。
施餓鬼はいつ行われる?
施餓鬼はいつ行ってもよいとされているため、時期や日にちに決まりはありません。毎日行っているお寺もあります。また、大きな災害などが発生した後に催されることもあります。
開催されるのが多い時期は、お盆(7月・8月)、春彼岸(3月)、秋彼岸(9月)です。特にお盆は「地獄の窯のフタが開く(亡者が現世へ降りてくる)」ともいわれており、ご先祖様だけでなく、餓鬼も現世にやって来るという考えから、施餓鬼を実施するのに適したタイミングだとされています。
苦しんでいる人に手を差し伸べることや、分け与えることの大切さを説いたお釈迦様の教えを実践するため、全国で一年を通して施餓鬼が行われています。
盂蘭盆会(お盆)と施餓鬼会の違い
「盂蘭盆会(うらぼんえ・お盆のこと)」は、お釈迦様の十大弟子のひとりである目連(もくれん)尊者が、餓鬼道に落ちた母親を救う伝承が由来となった先祖供養の仏教行事です。施餓鬼の由来に通じる部分があり、お盆の時期に施餓鬼を行うことが多いため混同されがちですが、それぞれ異なる意味合いを持っています。
◆盂蘭盆会(お盆)と施餓鬼会の違い
- 盂蘭盆会(お盆)…ご先祖様を自宅へお迎えして供養する仏教行事のこと。毎年夏の決まった時期に実施する。
- 施餓鬼会(施餓鬼・施食会)…餓鬼や無縁仏など飢えに苦しむ霊魂に対し、食べ物や飲み物などを施して供養する法会(儀式)のこと。時期に決まりはなく、いつ実施してもよい。
■盂蘭盆会(うらぼんえ)について詳しくはこちら
先祖供養のための大切な行事である「盂蘭盆会」について、由来となった伝承や施餓鬼との違いなど徹底解説します。
宗派による施餓鬼の違いと特徴
施餓鬼は、仏教の宗派によって考え方の違いや独自の特徴があります。それぞれの宗派ごとに詳しく解説します。
浄土真宗
浄土真宗は施餓鬼を行いません。
浄土真宗の教えでは、亡くなった方はすぐに極楽浄土へ往生するとされています。そのため、餓鬼や無縁仏は存在せず、供養の必要がないからです。
禅宗(曹洞宗・臨済宗など)
曹洞宗では、施餓鬼会のことを「施食会(せじきえ)」といいます。これは、施す者と施される者に身分の違いがあるべきではないという考えによるものです。
臨済宗の施餓鬼法要では、焼香(お線香)を用いた供養の代わりに、供物棚へ洗米や水を施す「水向け」をすることがあります。
また、禅宗ではお盆の時期などに行う施餓鬼法要とは別に、日常的に「生飯(さば)」という施食作法が取り入れられています。これは食事の際に七粒ほどの米粒を取り分けて屋根に撒くなどし、餓鬼や無縁仏に施して供養をする作法です。
真言宗
真言宗の施餓鬼は、餓鬼への施しと同時に 護摩を焚いて祈祷することが特徴です。餓鬼への施しは毎日行うことがよいとされており、他の宗派より多く施餓鬼を実施しています。
日蓮宗
日蓮宗では開祖である日蓮聖人が、亡霊としてさまよう鵜飼の老人を、三日三晩かけて行った川施餓鬼で成仏させた伝承に基づく「鵜飼」という謡曲が有名です。「鵜飼」を由来とした川施餓鬼などが現在も各地で実施されています。
浄土宗、天台宗
浄土宗、天台宗でも施餓鬼は大切な法要とされており、
数多くのお寺で大規模に実施されています。
気になるお布施の相場と表書き
一般的な施餓鬼の供養料(お布施)はどのくらいでしょうか。お寺・地域によって相場が異なるため一概には言えませんが、目安の金額について解説します。また、のし袋や適切な表書き・水引など、お布施のマナーについても記載しています。
一般的なお布施の相場
施餓鬼法要の一般的なお布施・諸費用の相場を解説します。
◆施餓鬼法要のお布施
3,000円~10,000円程度
◆御塔婆料(卒塔婆(塔婆)を僧侶へ依頼する場合に必要)
3,000円~10,000円程度
◆御車代(自宅等に僧侶を招いて施餓鬼法要を実施する場合に交通費として必要)
5,000円~10,000円程度
◆盆法要のお布施(施餓鬼法要と合わせて実施する場合、それぞれにお布施が必要)
5,000円~20,000円程度(新盆・初盆の場合、30,000円~50,000円程度)
上記は、お寺によって金額が指定されている場合もあります。また、お寺や地域性によって相場は異なります。事前に僧侶や周囲の方に確認しておくと安心です。
※「卒塔婆(そとば)」「塔婆(とうば)」については「卒塔婆ほか、地域独自の必要品」で詳しく解説しています。
■新盆(初盆)法要について詳しくはこちら
新盆(初盆)法要について、僧侶へお渡しするお布施や当日までの準備、マナーなど、細かく解説しています。
のし袋と表書きのポイント
◆施餓鬼におけるお布施の基本マナー
- お金は奉書紙に包むか、白無地の封筒やのし袋(不祝儀袋)に入れる
- 表書きは「御布施」または「お布施」で、水引は基本不要
- 紙幣は新札を準備するとより丁寧
- 紙幣の入れ方は慶事と同じ
- お渡しする際はふくさを使用する
ひとつずつ具体的に解説していきます。
のし袋について
お寺へお渡しするお金は、正式には「奉書紙(ほうしょがみ)」と呼ばれる和紙に包みます。奉書紙が準備できない場合は白無地の封筒や市販されているのし袋(不祝儀袋)でも構いません。
表書きと水引について
特にお寺からの指定がない場合、上部に濃墨の毛筆(または筆ペン)で「御布施」または「お布施」と書きます。
お寺によっては「御施餓鬼料」「冥加料」「御回向料」などと書く場合や、「諷誦(ふじ・ふじゅ)」と書く地域もあります。(千葉の一部地域など)
「御布施(お布施)」の真下にはご自身の姓名を記載します。
封筒の裏には、右側にお包みした金額を漢数字で記載し、左側に住所・氏名を記載します。中袋がある場合は、中袋の表に金額、裏左側に住所・氏名を記載します。
お布施は僧侶へのお礼ですので、水引は基本的に不要です。結び切りまたはあわじ結びの水引が付いているのし袋でも問題はありません。水引については、地域やお寺によって独自の決まりが存在する場合もありますので、事前に確認しておきましょう。
のし袋(不祝儀袋)
紙幣について
紙幣は新札を用意するとより丁寧です。
(ちなみに、お香典の新札は「不幸に対してあらかじめ準備していた」と思わせるため、折り目の付いた紙幣を使うことがマナーとされています。)
封筒の表と紙幣の表を合わせ、顔が書かれている部分が袋の上部に来る向きで入れます。慶事と一緒の入れ方です。
お金の渡し方
お布施は、ふくさにしまって持ち歩き、お渡しするときに取り出します。
ただし、お寺で施餓鬼法要を行う場合、受付でお札をそのまま(何も包まず)お渡しすることもあります。
袱紗(ふくさ)
何をする?施餓鬼法要の流れとマナー
施餓鬼法要で具体的に行うこと・全体の流れを一例として紹介します。
服装や持ち物、欠席する場合のマナーについても詳しく解説しています。
開催場所と参加方法
施餓鬼の開催場所・参加方法は大きく分けて2つあります。
- お寺や墓所で実施される施餓鬼法要に参加する方法
- 自宅に僧侶を招いて行う方法(「内施餓鬼(うちせがき)」とも呼ばれます。)
お盆やお彼岸になると、数多くのお寺が檀家を招いて施餓鬼法要を実施します。この場合、事前に案内が手元に届きますので、参加の申し込みを済ませておきましょう。
また、お寺によっては、水の事故で亡くなった方を弔うため「川施餓鬼」や「海施餓鬼」を川岸や舟の上で実施することもあります。
お盆に自宅へ僧侶を招いての施餓鬼法要を希望する場合は、早めに僧侶へ対応の可否確認と依頼をしておきましょう。棚経(お盆に僧侶が檀家の家を訪れ、盆棚にお経をあげること)に合わせて依頼するケースが多いようです。
また、先祖供養の法要とは別の法要となるため、ご先祖様のお供え物だけでなく、施餓鬼用のお供え物も準備します。必要なものや飾り方も事前確認しておくと安心です。
適切な服装と身だしなみ
施餓鬼はお寺の年中行事ですので、正喪服の必要はなく、略喪服(平服)で構わないとされています。黒、白、グレー、紺など落ち着いた色合いを選ぶとよいでしょう。普段着も可能ですが、男性はスーツ・シャツ、女性はワンピースを選ぶと無難です。
アクセサリー、マニキュア、髪型・髪飾りについては、派手なものは控えましょう。
施餓鬼法要の持ち物
お布施とお数珠を忘れずに持参しましょう。
お寺によっては、お供え物(施餓鬼米など)や御塔婆料が必要になる場合があります。
数珠・念珠
施餓鬼法要の流れ
施餓鬼法要の流れは寺院によって異なりますが、一例を紹介します。
◆お寺での施餓鬼法要の流れ(一例)
- 受付でお供え物やお布施などをお渡し
- 会食・お弁当がふるまわれる
- 僧侶による法話
- 法要(読経・お焼香など)
- 卒塔婆(塔婆)を受け取りお墓参り
お寺によっては、読経・法要だけでなく、人々の交流の場として食事会が開かれたり、他のお寺の僧侶や外部ゲストを招いて法話やトークイベントを開催することもあります。
施餓鬼法要は重要な仏教行事のため、多くの人々に参加してもらうためにお寺も力を入れて取り組んでいます。また、施餓鬼法要をきっかけとして参加者同士の縁がつながるようにという願いも込められています。
施餓鬼法要を欠席する場合
施餓鬼法要への参加は任意で、強制ではありません。
故人様が亡くなって初めて迎えるお盆(新盆・初盆)など、先祖供養のきっかけとなる年には施餓鬼法要にも参加される人が多いようですが、都合が悪くて行けない場合は欠席しても失礼にはあたりません。
ただし、出欠席の返事が必要な場合や、参加を予定していたのに急遽行けなくなったという場合は早めに欠席の連絡を入れるようしましょう。
施餓鬼に行かない場合、基本的にお布施は不要ですが、御塔婆料や会費として必要になる場合もあります。お寺からの案内をよく確認しておきましょう。檀家総代や世話人に聞いてみるのもいいでしょう。
卒塔婆ほか、地域によって必要なもの
施餓鬼では、追善供養として卒塔婆(塔婆)をお墓に立て、お参りをすることが通例となっている地域があります。また、卒塔婆以外にも、地域独自で必要な品などが存在します。ここではその一例を紹介します。
卒塔婆(塔婆)
「卒塔婆(そとば)」とは「塔婆(とうば)」の正式名称で、故人の冥福を祈ってお墓の脇や後部に立てかける木の板のことです。お釈迦様のお骨を納めるために建てられた仏塔(ストゥーパ)に由来しています。
卒塔婆を立てることは善業(徳を積むこと)とされており、ご先祖様の追善供養になります。立てる時期に決まりはありませんが、お盆(盆法要や施餓鬼法要のタイミング)やお彼岸、命日など、供養の節目で立てることが多いです。
基本的には、故人様お一人に対して一本の卒塔婆を立てますが、複数のご先祖様の卒塔婆を1本にまとめた「先祖代々」の卒塔婆を立てる場合もあります。お寺によって方法が異なりますので、詳しくは菩提寺のご住職へ尋ねられるとよいでしょう。
卒塔婆は浄土真宗では用いません。また地域差もあり、九州ではあまり見られません。霊園、墓所によっては卒塔婆のお供えが不可とされている場合もありますので注意しましょう。
卒塔婆を建てておく期間に決まりはありませんが、古くなったらお寺に依頼してお焚き上げしてもらうとよいでしょう。
施餓鬼旗(施食幡)
「施餓鬼旗(せがきばた)」または「施食幡(せじきばん)」とは、餓鬼を供養するために用いられる旗のことです。5色の旗が1組になっているものと、1つの旗が5色に染められているものがあります。
施餓鬼旗の5色は、それぞれ仏様を表しており、餓鬼となって苦しむ霊魂を救う手助けをしてくれるといわれています。
-
黄色…過去寶勝如来(かこほうしょうにょらい)
別名「多寶如来」、餓鬼世界で苦しむあらゆる人々を救済する仏様
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緑…妙色身如来(みょうしきしんにょらい)
美しい身体と健康を与えてくださる仏様
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赤…甘露王如来(かんろおうにょらい)
煩悩を消し去り、心身を穏やかにしてくださる仏様
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白…廣博身如来(こうはくしんにょらい)
餓鬼の狭い喉を広げ、食べる楽しみや美味を与えてくださる仏様
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紫(青)…離怖畏如来(りふいにょらい)
慈悲の心で恐怖や苦痛を取り除いてくださる仏様
施餓鬼旗は施餓鬼法要の参列者に配られ、お守りとして卒塔婆と一緒にお墓にお供えしたり、お盆の時期には盆棚(精霊棚)やお仏壇に飾ったりもします。
お盆に配られた施餓鬼旗は、お盆の終わりに送り火と一緒にお焚き上げをするか、お寺に納めてお焚き上げしていただきます。
施餓鬼米
遠州地方の新盆(初盆)には独特な文化があり、白い袋にお米を詰めたお供え物の「施餓鬼米(せがきまい)」が必要な場合があります。
一般的に、故人様が女性の場合は三角の袋、男性の場合は四角の袋を使用します。地域によって逆の場合もあります。
故人様があの世でも食べるものに困らないようにという祈りが込められています。
水の子
お盆に盆棚(精霊棚)などにお供えする「水の子」は、なすやきゅうりを細かく刻み、水で浸したものです。水の子は、餓鬼の喉を通り、空腹を満たすことができるため、施餓鬼を行う上で重要なお供え物のひとつとされています。
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